事業承継税制とは、後継者が中小企業の株式を相続や贈与で引き継いだときに、本来支払うべき多額の相続税や贈与税の納税を猶予する制度です。猶予された税金は、将来的に免除されることを想定しています。
平成30年度税制改正で、抜本的に拡充された形で、時限措置として新たに設けられた新制度ですので、私たちは新・事業承継税制と呼んでいます。
この新制度の概要、適用要件、注意点など、重要ポイントを図解でやさしく、わかりやすく解説します。
内容よりも、経験者が語る制度の実情を知りたい方はこちら↓
特例承継計画の書き方についてはこちら↓
中小企業の事業承継が喫緊の課題であり、日本経済に与える影響が非常に大きいことを、国は明確に認識しました。
経営者の高齢化が急速に進展しており(年齢分布のピークが60歳代半ば)、これを放置すると10年間で約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われると試算されています。
しかし、それまでの事業承継税制は、制度ができて8年ほど経過していますが、これまでの累計で全国でたったの1,965件にすぎませんでした。
今回、平成30年度税制改正により、この深刻な事業承継問題に対処するため、事業承継税制の特例措置を時限的に創設することで、世代交代を後押しすることになりました。
具体的には、令和5年3月までに「特例承継計画」という計画を提出し、令和9年12月までに実際に事業承継(経営の承継+株式の承継)を行う経営者を対象に、現在の事業承継税制を抜本的に拡充した新制度を創設されました。
この制度を有効に活用することで、多くの中小企業のより円滑な事業承継を可能にします。
入口の要件の緩和は、いずれも重要です。
なにより、対象株式が2/3までで80%の納税猶予だったものが、全株が対象で100%納税猶予になり、贈与税や相続税の支払いなしに、事業承継が可能になったことは、画期的です。
また、先代経営者だけが株を持っているケースはむしろ少なく、奥様やご兄弟も一部株式を持っていることが多いです。これらの株式の後継者への贈与も対象となりました。
(先代経営者以外の他の方からの株式の贈与は、まずは先代経営者からの贈与について適用を受けることが要件で、その後一定期間内に贈与することが要件です。)
適用後のリスク軽減についても、重要な改正がなされています。
これまで、業績が悪化するなどして、株価が大幅に下落しても、事実上の倒産など限られた場合にしか、猶予された税額の免除がされませんでした。
新制度では、業績が悪化して、M&Aで譲渡したり、解散するなどした場合には、かなり緩やかな条件で、再計算がなされ、
猶予期間がかなりの長期間となるこの制度にとって、これは、後継者が抱えるリスクを大きく低減することになります。
(下で詳しく解説しています。)
また、これまでの制度では、雇用者数を5年間平均で8割維持することが必須の要件でしたが、この要件が撤廃されています。
この制度は、対象となる贈与(や相続)を平成30年1月~令和9年12月の10年間限定とする特例制度です。
ただし、適用を受けるためには、平成30年4月~令和5年3月の5年間に、特例承継計画を策定して、都道府県知事に提出し、確認を受ける必要があります。
そのため、適用を受けるためには、必ず、令和5年3月までの間にアクションを起こすことが必要です。
贈与の場合、先代経営者の主な要件は、
後継者の主な要件は、
です。
先代経営者から後継者への贈与は、基本的には先代経営者が持つ株の全株の贈与でなければなりません。
また、先代経営者は、贈与時には代表を退任している必要があります。
そのため先代経営者は覚悟が必要ですが、そうでなければ、事業承継にならないため、この制度の適用は受けられないことになります。
また、後継者はどんなに遅くとも、令和6年末までに役員に就任していなければなりません(贈与の場合)。
会社は、一般的に中小企業と言われる会社は基本的には対象になりますが、いわゆる資産管理会社は対象となりません。
そのため不動産賃貸業に関しては、適用が難しい場合が多いです。
納税猶予額の計算は、贈与税も相続税も、以下の3ステップです。
ポイントは、相続税の場合、他の相続人の財産を含めて、税率が決まること。
これにより、対象の株式を相続しない他の相続人も、株を含めた高い税率になってしまいます。
もう一つのポイントは、超過累進税率による階段部分(低い税率の部分)が、納税猶予以外の部分に使われてしまうことです。
贈与から5年以内は多少厳しめの要件がありますが、5年経過すると比較的緩やかな要件のみとなります。
この制度は、猶予の期間が極めて長期間に及びますが、その間に業績が悪化して会社が立ち行かなくなってしまったときにはどうしたらよいのでしょうか?
原則は、事業を止めたり、株式を売却した場合、猶予されている税額を利息をプラスして全額支払うことになっています。
しかし、新・事業承継税制では、セーフティーネットとして、そのような場合の特例があり、売却等の時の株価等をもとに再計算し、差額は免除されることになっています。
この制度を利用するメリットとデメリット、いろいろありますが、代表的なものを挙げてみたいと思います。
【メリット】
【デメリット】
このため、この制度で最も重要なことは、この制度に精通した専門家が、取消事由をよく理解して、適用を受ける会社を継続的にサポートすることにあると考えています。
こちらに、より詳しく解説してますので、ぜひご覧ください →事業承継税制のメリットとデメリット
納税猶予制度について、ポイントをかいつまんでご説明しました。
しかし、根拠法令は「租税特別措置法」と「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」の2つにまたがり、特に租税特別措置法の該当条文は、関連法令を含めるとかなりのボリュームで、かつ、難解です。
取消事由は26項目に及び、そのそれぞれについて、必ず検討すべきです。
また、相続時精算課税制度の併用など慎重に検討すべき項目もあります。
実際には、外国子会社がある場合など、猶予の税額計算が複雑になるケースもあります。
また、担保提供手続きやそれに伴う利子税の計算など、事務手続き自体も非常に煩雑です。
経験者にご依頼することを強くお勧めします。
特に、適用を受けられないと言われた場合などでも、要件を精査することで適用が可能な場合もあります。
事業承継がなかなか進まないのは、いつも先延ばしにしたり、後継者が親に言い出しにくかったり・・後手後手になってしまいがちです。
しかし、この特例措置の適用を受けることができるのは、令和5年3月までに、後継者を誰にするか、いつくらいに渡すかなどの計画を知事に提出することが絶対条件です。
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