事業承継税制のメリットとデメリット

事業承継税制のメリットとデメリット


事業承継税制を利用しようか考えられている方にとって、まず知りたいのは、この制度が一般的にいって、よい制度なのかどうか、ではないでしょうか。

経営者の世代交代が進まない中、ほとんど使われていなかった制度だったものを、利用促進を図るために、平成30年に大幅に改正されました。

改正前後の旧制度、新制度の両方に渡り、実際に、多数の事業承継税制の経験をした立場から、メリットとデメリットをあらためて整理した上で、その印象を率直にお伝えします。

 

※制度の内容が知りたい方は、こちらへ →新・事業承継税制がわかる!

メリットとデメリット


そもそもこの制度のメリットとデメリットは何でしょうか?

以下の点に集約されます。

 

メリット

  • 対象株式分の贈与税・相続税の猶予(後継者の相続発生など、一定の事由により免除)

 

デメリット

  • 煩雑な事務手続き
  • 非常に複雑な制度
  • 納税猶予の取消リスク(取消しになると猶予税額の全額と利息を支払)

メリット 対象株式分の贈与税・相続税の猶予


対象株式分の相続税・贈与税の納税が猶予されます。

この猶予された税額は、(途中で取消しにならない限りは、)最終的には、後継者の相続発生など、一定の事由が発生することで免除されます。すなわち、対象株式の贈与税・相続税の負担がゼロになります。

これが、この制度を利用する上での唯一のメリットです!

デメリット1 煩雑な事務手続き


まず、事務負担ですが、昔と比べると少しずつ軽減されてきていますが、まだまだ、負担が重いです。

特に、資産保有型会社、資産運用型会社に該当しないことを証明するための関連書類の比重が大きかったのですが、平成29年度税制改正により、事業実態があることを証明できれば、提出書類を削減できるようになり、事務負担の軽減につながっています。

ただ、常時雇用従業員数が5人未満の会社の場合には、申請書への記載項目が多いです。

また、都道府県によって、提出が求められる書類の量や種類、確認の厳格さに大きなばらつきがあり、場合により、かなり多くの添付書類の収集・提出が義務付けられます。

従業員が少ない、事業拠点が少ない小規模の会社ほど、大変です。

 

従業員数を証明するための書類も複雑で、対象となる会社から社会保険関係の資料の提供を受けるのには困難が多く、一度ですべての適切な資料がそろったことはほとんどないです。

令和元年5月ごろから、申請マニュアルが改正され、『被保険者縦覧照会回答票』でもよいことになる予定で、事務負担が軽減されるとされていますが、この書類もあまり一般的なものではないようで、今のところe-Govによる電子申請もできないようです。

 

これらは、適用を受けた後の毎年の年次報告でも同様です。

適用から5年経過後は3年おきの継続届出になりますが、必要書類はそれほど変わりません。

つまり、重い事務負担は一生続くことになります。

 

一方、平成31年4月から、特例承継計画に従業員数証明書の添付が不要になりました。

これまで特例承継計画そのものよりも、むしろ従業員数証明書の準備の方に手間がかかっていただけに、特例承継計画の策定・提出の促進につながりそうです。

デメリット2 非常に複雑な制度


条文が非常に細かく膨大です。以前、事業承継税制に関連する条文(租税特別措置法と政省令、通達、円滑化法と省令の該当条文)だけを抜き出して文字数をカウントしたことがありますが、43万文字を超えました。ちなみに民法の全条文1,044条は、14万文字弱(改正前)でした。

経営者や後継者はもちろんのこと、顧問の税理士の先生も日頃の法人税や消費税などの業務の傍ら、これらをすべて把握することは、かなりハードルが高いのではないかと思います。

細かい規定が多く、例えば、外国子会社がある場合の取扱いなどは、トラップではないかと疑うほど複雑です。

デメリット3 取消リスク


そして、この制度の最大のデメリットは、永久とも思えるほど長く続く取消リスクです。文字通り、一生続くことになります。

事業承継税制の適用を受けた企業は、常に取消リスクに向き合い続けなければなりません。

 

取消事由も細かく規定され、26項目あります。

例えば、代表的な取消事由として、その会社が資産保有型会社というものに該当すると、取消となり、後継者個人が、猶予されていた税額の全額を、利子税とともに、2か月以内に支払わなければなりません。

資産保有型会社とは、賃貸用不動産とか現預金とか貸付金などの割合が多い(70%以上)会社です。

以前は、一日でも資産保有型会社等に該当すると取消しとなりましたが、平成31年度税制改正により、やむを得ない事情があれば、半年の猶予が設けられることになりました。

そのため、事業活動のために借入れをして一時的に現預金が増加したとき、資産を売却して一時的に現預金が増加したときなどは、やむを得ない事情があるものとして半年の猶予が認められます。

でも例えば、卸売業や住宅販売業の会社が不景気で売上が激減してしまい、売掛・買掛や在庫が減り、相対的に現預金の割合が多くなってしまったり、あるいは、銀行の支店の成績の都合で期末に多額の借入の要請に応じてしまったり、たまたま退職が重なり一時的に従業員数が5人を下回ってしまうようなことがあったとしても、これらの事情が偶発的な事由と認められるかどうかは難しい問題です。

しかも、継続届出書の提出は1年に一回又は3年に一回です。半年の猶予ということは継続届出書を作成した時点で判明しても手遅れということに変わりありません。今回の改正が目に見える形で緩和されたかというと疑問です。

 

また、継続届出書の提出遅れも取消事由です。一日でも遅れると利子税とともに全額支払いが要求されます。継続届出書の提出は、適用から5年経過すると3年に一回となり、事務負担の軽減が図られているように見えますが、提出忘れを誘発する可能性の方が高い気がします。

メリットとデメリットとの天秤


これまで書いてきたとおり、この制度の唯一のメリットは、対象株式分の贈与税・相続税の猶予です。

なので、事務負担と取消リスクなどのデメリットを上回るほどのメリット、つまり猶予税額がなければ、事業承継税制は選択すべきでないことになります。

例えば、猶予税額が数億円であれば、事業承継の有力な選択肢の一つとして必ず適用を検討すべきです!

が、猶予税額が数百万であれば、到底お勧めできる制度ではありません。他にもっといい方法があるはずです。

まとめ


デメリットばかり長々と書いてしまいましたが、猶予税額が大きければそれを支払わなくて済むというメリットは絶大です!!

 

なので、事業承継税制の適用を考えるときには、まずは猶予税額の試算からです!

 

そして猶予税額が大きく、この制度の適用を受けることを決めたならば、

・経営者本人や信頼できる事務方、税理士などが取消事由に気を配ること

・毎年(又は3年おきに)、年次報告や継続届出書を出し続けること

を当たり前のこととして受け入れることです。

そのためには、制度に詳しい専門家が継続的にサポートすべきだと思います。

 

 

猶予税額の試算や適用を受ける場合のサポートはこちら↓

新・事業承継税制がわかる!


新・事業承継税制がわかる!


平成30年度税制改正で、抜本的に拡充された事業承継税制

時限措置として新たに設けられた新制度の概要、適用要件、注意点など、重要ポイントを図解でやさしく解説します。

 

*平成30年2月に、税制改正法案が国会に提出されたことにより明らかとなった事項について、加筆修正しています。

*平成30年3月に、改正後の関係政令、省令、経営承継円滑化法の省令が公布されたことにより明らかになった事項について、加筆修正しています。

 

内容よりも、経験者が語る制度の実情を知りたい方は、こちらもご覧ください →事業承継税制のメリットとデメリット

制度改正の背景


中小企業の事業承継が喫緊の課題であり、日本経済に与える影響が非常に大きいことを、国は明確に認識しました。

経営者の高齢化が急速に進展しており(年齢分布のピークが60歳代半ば)、これを放置すると10年間で約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われると試算されています。

 

しかし、これまでの事業承継税制は、制度ができて8年ほど経過していますが、これまでの累計で全国で1,965件にすぎませんでした。

 

今回、平成30年度税制改正により、この深刻な事業承継問題に対処するため、事業承継税制の特例措置を時限的に創設することで、世代交代を後押しすることになりました。

具体的には、今後5年以内に承継計画を提出し、10年以内に実際に承継を行う経営者を対象に、現在の事業承継税制を抜本的に拡充した新制度を創設されました。

 

この制度を有効に活用することで、多くの中小企業のより円滑な事業承継を可能にします。

新・納税猶予制度の内容


改正内容の詳細は、こちらをご覧ください 事業承継税制の特例の創設(平成30年度税制改正大綱より)

 

概要は、下の図のようになります。

事業承継税制の現行制度と新制度の比較図 入り口の要件を大幅に緩和

入口の要件の緩和は、いずれも重要です。

 

なにより、対象株式が2/3までで80%の納税猶予だったものが、全株が対象で100%納税猶予になり、贈与税や相続税の支払いなしに、事業承継が可能になったことは、画期的です。

 

また、先代経営者だけが株を持っているケースはむしろ少なく、奥様やご兄弟も一部株式を持っていることが多いです。これらの株式の後継者への贈与も対象となりました。

(先代経営者以外の他の方からの株式の贈与については、先代経営者からの贈与について適用を受けることが要件で、特に適用期間が定められています。下記の適用期間の解説部分をご覧ください。)

事業承継税制の現行制度と新制度の比較図 適用後のリスクを軽減

適用後のリスク軽減についても、重要な改正がなされています。

 

これまで、業績が悪化するなどして、株価が大幅に下落しても、事実上の倒産など限られた場合にしか、猶予された税額の免除がされませんでした。

新制度では、業績が悪化して、M&Aで譲渡したり、解散するなどした場合には、かなり緩やかな条件で、再計算がなされ、

猶予期間がかなりの長期間となるこの制度にとって、これは、後継者が抱えるリスクを大きく低減することになります。

 

また、これまでの制度では、雇用者数を5年間平均で8割維持することが必須の要件でしたが、この要件が撤廃されています。

新・事業承継税制の適用期間


事業承継税制の適用期間の概要図

この制度は、対象となる贈与(や相続)を平成30年1月~平成39年12月の10年間限定とする特例制度です。

 

ただし、適用を受けるためには、平成30年4月~平成35年3月の5年間に、特例承継計画を策定して、都道府県知事に提出し、確認を受ける必要があります。

 

そのため、適用を受けるためには、必ず、今後5年の間にアクションを起こすことが必要です。

 

事業承継税制の適用期間の概要図 先代経営者以外の者からの贈与についても適用を受ける場合

先代経営者以外の他の株主からの贈与も対象にするためには、まず先代経営者からの贈与についてこの制度の適用を受け、その上でその贈与税の申告期限から5年以内に申告期限が来ることが必要です(同時も可)。 

納税猶予制度のしくみ(相続税)


事業承継税制の納税猶予のしくみ(相続税)
  • 後継者が先代経営者から相続等により取得した対象会社株式(全部)に係る相続税(100%)の納税を、後継者の相続まで猶予することができます。
  • 後継者の相続があった場合には、猶予されている相続税の全てが免除されます。
  • 贈与から5年以内は多少厳しめの要件がありますが、5年経過すると比較的緩やかな要件のみとなります。
  • 最終的には、後継者の相続発生か、さらに次の後継者にこの制度を使って贈与することで、猶予されていた税額が免除となります。

納税猶予制度のしくみ(贈与税)


事業承継税制の納税猶予のしくみ(贈与税)
  • 後継者が贈与により取得した対象会社株式(全部)に係る贈与税の納税を、贈与者(先代経営者)の相続発生時まで猶予することができます。
  • 贈与者(先代経営者)の相続により、猶予された贈与税は免除される一方、相続税の計算に加算されることになっています。ただし、そのとき、相続税の納税猶予制度に切り替えて、引き続き納税猶予を受けることができます。
  • 贈与から5年以内は多少厳しめの要件がありますが、5年経過すると比較的緩やかな要件のみとなります。
  • 最終的には、後継者の相続発生か、さらに次の後継者にこの制度を使って贈与することで、猶予されていた税額が免除となります。

適用要件


事業承継税制の適用要件

贈与の場合、先代経営者の主な要件は、

  • 会社の代表者であったこと
  • 贈与直前で、一族で50%超で、一族の中で筆頭株主

後継者の主な要件は、

  • 会社の代表者であること
  • 贈与により、一族で50%超で、一族の中で筆頭株主となること
  • 20歳以上
  • 役員就任後3年経過

です。

 

先代経営者から後継者への贈与は、基本的には先代経営者が持つ株の全株の贈与でなければなりません。

また、先代経営者は、贈与時には代表を退任している必要があります。

そのため先代経営者は覚悟が必要ですが、そうでなければ、事業承継にならないため、この制度の適用は受けられないことになります。

 

会社は、一般的に中小企業と言われる会社は基本的には対象になりますが、資産管理会社は対象となりません。

そのため不動産賃貸業に関しては、適用が難しい場合が多いです。

納税猶予額の計算方法


納税猶予額の計算は、贈与税も相続税も、以下の3ステップです。

 

ポイントは、相続税の場合、他の相続人の財産を含めて、税率が決まること。

これにより、対象の株式を相続しない他の相続人も、株を含めた高い税率になってしまいます。

 

もう一つのポイントは、超過累進税率による階段部分(低い税率の部分)が、納税猶予に使われてしまうことです。

納税猶予額の計算方法の3ステップ
納税猶予額の計算方法の3ステップ

手続きの流れ(贈与の場合)


事業承継税制の手続きと適用後の要件1
事業承継税制の手続きと適用後の要件2
事業承継税制の手続きと適用後の要件3

主な免除事由と取消事由


  • 主な免除事由 (→もう払わなくてよい)
    • 後継者の死亡
    • 後継者が次の後継者に贈与税の納税猶予の適用を受ける贈与をした 

 

贈与から5年以内は多少厳しめの要件がありますが、5年経過すると比較的緩やかな要件のみとなります。

  • 5年内の主な取消事由 (→猶予税額の納付が必要)
    • 後継者が代表者でなくなった(やむを得ない場合を除く)
    • 一族の議決権が50%以下になった
    • 後継者が一族のなかで筆頭株主でなくなった
    • 一部でも対象となった株を売却した 
  • 5年経過後の主な取消事由 (→猶予税額の納付が必要)
    • 対象となった株を売却した(売却した分のみ取消) 

 

  • 業績悪化*により売却、解散等した場合の特例 (→売却等の時の株価等をもとに再計算し、差額は免除)

  * 業績悪化とは・・下記のいずれか

    1. 直前3期間のうち、2期以上経常赤字
    2. 直前3期間のうち、2期以上減収
    3. 直前期末において、借金が売上の半年分以上
    4. 直前期における同業種の上場会社の各月平均株価が、直前々期の各月平均株価より下落 又は 直前々期における同業種の上場会社の各月平均株価が、その前の期の各月平均株価より下落
    5. 受贈者が、心身の故障その他の事由により業務に従事することができなくなったこと(解散除く)

 (注) 株式の譲渡や解散等が、直前期末から6カ月以内に行われた場合には、上記1と2の「直前3期間」は「直前4期間」と、上記3の「直前期末」は「直前期末か直前々期末」となります。

事業承継税制適用後の売却時の時価総額と納税猶予額との関係

相続税の納税猶予への切換と取消事由との関係


取消事由は、5年を経過すると、緩やかなものに変わります。

ですが、相続税の納税猶予への切換時には、また切換要件となるものもあるため、注意が必要です。

メリット・デメリット


この制度を利用するメリットとデメリット、いろいろありますが、代表的なものを挙げてみたいと思います。

 

【メリット】

  • 莫大な相続税や贈与税を支払わなくてよい
  • そのための納税資金を用意する必要もない
  • 他の事業承継対策のように、株価対策などのため、利益を圧縮するなどの必要がない
  • 特例は期間限定であるため、それを口実に、後継者が先代経営者に言いやすい、促しやすい

 

【デメリット】

  • 猶予期間が極めて長期間におよぶ
  • 取消事由に該当すると、猶予されていた税額に加えて、利息も支払う必要が出てくる
  • 極めて複雑な制度であるにも関わらず、経験のある税理士がほとんどいない

このため、この制度で最も重要なことは、この制度に精通した専門家が、取消事由をよく理解して、適用を受ける会社を継続的にサポートすることにあると考えています。

納税猶予制度は複雑!経験者に依頼を!


納税猶予制度について、ポイントをかいつまんでご説明しました。

しかし、根拠法令は「租税特別措置法」と「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」の2つにまたがり、特に租税特別措置法の該当条文は、関連法令を含めるとかなりのボリュームで、かつ、難解です。

取消事由は26項目に及び、そのそれぞれについて、必ず検討すべきです。

また、相続時精算課税制度の併用など慎重に検討すべき項目もあります。

実際には、外国子会社がある場合など、猶予の税額計算が複雑になるケースもあります。

また、担保提供手続きやそれに伴う利子税の計算など、事務手続き自体も非常に煩雑です。

 

経験者にご依頼することを強くお勧めします。

 

特に、適用を受けられないと言われた場合などでも、要件を精査することで適用が可能な場合もあります。

 

 

事業承継がなかなか進まないのは、いつも先延ばしにしたり、後継者が親に言い出しにくかったり・・後手後手になってしまいがちです。

しかし、この特例措置の適用を受けることができるのは、平成35年3月までに、後継者を誰にするか、いつくらいに渡すかなどの計画を知事に提出することが絶対条件です。 

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